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製品に関する重要なお知らせ

原発不明がんにおいて予後良好群を確実に抽出することの意義

● 原発不明がんの診断・治療の原則

原発不明がんは一般的に予後不良ですが、特定の治療法を有し長期生存が期待できる予後良好な患者群や、特定の治療は有さないが予後良好な臨床像(予後良好因子)呈する患者群が存在します1)
そのため、原発不明がんにおいては下記の3点が診断・治療の原則とされ、これらの原則を念頭におき、臨床像や病理学的評価から、原発不明がん全体の15~20%を占める、治癒可能な患者群、予後良好な患者群を確実に抽出することが重要とされています2)

治療可能な患者群、予後良好な患者群を見落とさないことが、原発不明がんの診断・治療の原則です
  1. 1)日本臨床腫瘍学会HP, 原発不明がん診療ガイドライン 改訂第2.1版 2023年2月
    https://www.jsmo.or.jp/about/doc/guideline_20230208.pdf>(参照日2023年3月28日)
  2. 2)日本臨床腫瘍学会編:原発不明がん診療ガイドライン 改訂第2版, p.2-3, 2018, 南江堂.

● 原発不明がんにおける予後良好群と予後不良群の全生存期間(OS)

2009年1月から2017年3月までに近畿大学病院で治療を受けた原発不明がん患者164例を対象としたレトロスペクティブな解析において、原発不明がんにおける全生存期間(OS)中央値は、予後良好群で29.3ヵ月、予後不良群で7.1ヵ月であったことが報告されています。

原発不明がんにおける全生存期間(OS)中央値は、予後良好群では29.3 ヵ月、予後不良群では7.1ヵ月でした

原発不明がんの予後良好群とその治療方針

原発不明がん診療ガイドライン改訂第2.1版に記載されている「特定の治療法を有する予後良好群」を以下に示します。予後良好群の定義に該当しない症例が予後不良群となります。

原発不明がんの予後良好群とその治療方針

※本邦未承認情報が含まれます。詳細は各薬剤の電子化された添付文書(電子添文)をご参照ください。

日本臨床腫瘍学会:原発不明がん診療ガイドライン 改訂第2.1版〔https://www.jsmo.or.jp/about/doc/guideline_20230208.pdf(2023年5月22日閲覧)〕

予後良好群の各臨床像

予後良好群の各臨床像は以下のとおりです。

❶ 腺癌、女性、腋窩リンパ節転移のみ

まず、同側の乳癌を疑います。腋窩リンパ節転移があり、臨床上同側乳房に腫瘤を認めない乳癌は、全乳癌の0.5%未満1)、平均年齢は50代半ばで、“潜在性乳癌”とも呼ばれています。

❷ 漿液性腺癌、女性、癌性腹膜炎、CA125上昇、(腹膜がん)

女性の癌性腹膜炎で腺癌と診断され、卵巣には明らかな腫瘤を認めず、消化器の原発巣が否定された場合、原発性腹膜癌と診断されます。年齢は60歳代が多く、癌性胸膜炎を伴うこともあります。臨床病期はFIGO分類に従い、原発性腹膜癌の大多数がⅢc、あるいはⅣ期です。

FIGO分類:国際婦人科産科連盟(International Federation of Gynecology and Obstetrics)による卵巣癌の病期分類

❸ 腺癌、男性、PSA上昇、造骨性骨転移

造骨性骨転移は前立腺癌で多く認められます。男性で、造骨性の骨転移、血清PSA上昇があり、さらに骨転移巣からの生検で腺癌が認められた場合、前立腺生検で前立腺癌と診断されていなくても、前立腺癌の骨転移である可能性が高いと考えられています。

❹ 扁平上皮癌、頸部(鎖骨上以外)リンパ節転移

病理組織が扁平上皮癌で、主に上・中頸部リンパ節転移のみを認め、上~下咽頭・喉頭の視触診と内視鏡検索にて原発巣を認めない症例は、局所進行の頭頸部扁平上皮癌に準じた病態と考えられています。頭頸部癌の2-9%、原発不明がんの2-5%2)を占め、片側のリンパ節転移が多いのが特徴と言われています。
一方、病変が下頸部や鎖骨上リンパ節の場合は、原発巣として肺、食道、胃、乳腺などが疑われます。

❺ 扁平上皮癌、鼠径リンパ節転移

鼠径リンパ節転移を有する癌症例において、原発巣は下肢の皮膚癌、子宮頸癌、外陰癌、体幹の皮膚癌、直腸・肛門管癌、卵巣癌、陰茎癌の順で多く、病理組織で多かったものは、悪性黒色腫、扁平上皮癌、腺癌であったことが報告されています3)。そのため、扁平上皮癌で鼠径リンパ節転移のみを有する症例は、生殖器や肛門領域から発生した腫瘍の可能性があると考えられています。

❻ 低分化(高悪性度)神経内分泌腫瘍

米国SEERデータベースによる1973~2012年までに登録された低分化神経内分泌腫瘍162,983例の検討において、原発部位は肺が91.3%、消化器(結腸、膵臓、直腸、胃、食道など)が3%、その他(尿路、女性器など)が2.9%、原発巣不明が2.8%でした4)
小細胞肺癌に近い臨床経過をとり、一般的に化学療法感受性が高いと 言われています5)

❼ 高分化(低悪性度)神経内分泌腫瘍

米国SEERデータベースによる1973~2004年までに登録された高分化神経内分泌腫瘍35,825例の検討において、原発巣として多い臓器は、肺、直腸、小腸、膵臓、胃などであったことが報告されています6)。また、高分化神経内分泌腫瘍における原発不明例の割合は10~14%と言われています7)。高分化神経内分泌腫瘍の多くがソマトスタチン受容体を発現しており、111Indiumで標識されたオクトレチドを用いた核医学検査(オクトレオスキャン®)は原発巣の検索に有用と考えられています。

オクトレチド:ソマトスタチン受容体に強い親和性があり、ソマトスタチンの作用を阻害する薬剤

❽ 正中線上に病変が分布(縦隔、後腹膜リンパ節、肺転移)、50歳未満の男性、βHCG/αFPの上昇(性腺外胚細胞腫瘍)

縦隔、後腹膜の腫瘍、多発性肺転移など体の正中線上に分布する腫瘍を認めた場合は、胚細胞腫瘍、悪性リンパ腫、軟部肉腫などが鑑別として挙げられます。特に50歳未満で血清腫瘍マーカーであるβHCG/αFPの上昇を認めた場合は胚細胞腫瘍の可能性を考慮します。胚細胞腫瘍では、腫瘍組織のIHCでPALPやOCT4などが陽性になることが多いと言われています。

βHCG(human chorionic gonadotropin-β):ヒト絨毛性ゴナドトロピン-βサブユニット
αFP(α-fetoprotein):胎児の血液中にある蛋白で、肝硬変、肝細胞癌、胚細胞腫瘍の際に上昇
PALP(placental alkaline phosphatase):胎盤絨毛の合胞性栄養膜細胞の細胞膜に存在する酵素、胎児期の胚細胞でPALPの免疫染色が陽性となる
OCT4(octamer-binding transcription factor 4):未分化胚性幹細胞の自己複製に関連する蛋白で、胚細胞腫瘍の胎児性癌、セミノーマなどでOCT4の免疫染色が陽性となる

❾ 肝転移や腹膜病変主体、免疫組織化学にてCK20+、CK7-、CDX2+

腹膜播種、肝転移、腹膜内リンパ節転移などの腹腔内病変が主体で、消化器に原発巣が認められない場合、腹膜や肝臓などの病変の生検を行います。その病理組織が腺癌で、さらにIHCにてCK20陽性/CK7陰性、およびCDX2陽性の場合は、大腸(結腸・直腸)由来の上皮性のがんが示唆されます。

CK20:サイトケラチン20
CK7:サイトケラチン7
CDX2(caudal type homeobox 2):腸管上皮細胞の増殖・分化に関与する転写因子をコードする遺伝子で、蛋白は大腸癌などにおいて発現

安藤正志編:原発不明がん~どのように取り扱えば良いのか、診断から治療の流れまで~, p.21-29, 2021, 医学と看護者社. を参考に作成

  1. <主な論文等>
  2. 1)Yamaguchi H, et al. Breast. 15: 259-262, 2006.
  3. 2)Jereczek-Fossa BA, et al. Cancer Treat Rev. 30: 153-164, 2004.
  4. 3)Zaren HA, et al. Cancer. 41: 919-923, 1978.
  5. 4)Dasari A, et al. Cancer. 124: 807-815, 2018.
  6. 5)日本臨床腫瘍学会編:原発不明がん診療ガイドライン 改訂第2版, p.53, 2018, 南江堂.
  7. 6)Yao JC, et al. J Clin Oncol. 26: 3063-3072, 2008.
  8. 7)Hendifar AE, et al. Pancreas. 48: 1111-1118, 2019.

2023年7月作成