がんチーム医療ナレッジ 新たなチーム医療のかたち タスク・シフト/シェア 薬剤師編
記事内容
免疫チェックポイント阻害薬(ICI)により発現する免疫関連有害事象(irAE)のマネジメントにおいては、チーム医療での取組みが重要です。神戸市の基幹病院として、地域住民の健康を担う神戸市立医療センター中央市民病院では、irAEマネジメントにおける薬剤師へのタスク・シフト/シェアに取り組んでいます。
この記事ではタスク・シフト/シェアの取組みについて、神戸市立医療センター中央市民病院 薬剤部の池末裕明先生にお話を伺いました。
神戸市立医療センター中央市民病院 薬剤部
池末裕明 先生
※2023年8月時点
【神戸市立医療センター中央市民病院のがん治療におけるタスク・シフト/シェアについて】
○がん治療におけるタスク・シフト/シェアのための取組み
当施設で実施している主な取組みは、①薬剤師外来と②検査オーダー入力支援の2つです。
これらの取組みは、治療に対する患者さんの理解が深まること、適切なタイミングで適切な項目をモニタリングできることにつながります。
また、安全性の向上に加え、これらの取組みから薬剤師が、「自分たちの責任を果たしている」というやりがいを感じ、「期待される役割を果たしていくためにさらに努力をしていきたい」といったモチベーションの向上や、医師の負担軽減などの効果も期待されます。
① 薬剤師外来
診断や治療方針については医師から十分説明されますが、一度に多くの情報を伝えると患者さんの理解が不十分になったり、時間的な制約もあり、治療における重要なポイントに絞られます。そのため、医師の診察前に薬剤師が患者さんと面談し、服薬指導や副作用の対応、標準治療についての一般的な説明などを行っています。この取組みによって治療に対する患者さんの理解が深まり、副作用のセルフマネジメントが上手になりました。また、それが治療に対する安心感にもつながっていると考えます。
神戸市立医療センター中央市民病院 薬剤師外来の取組み
薬剤師外来では、経口の抗がん薬治療を受けている全ての患者さんを対象に、薬剤師が面談を行い、副作用の症状や服薬の説明、副作用のモニタリング、処方支援などを行っています。抗がん薬だけでなく、支持療法として処方されている制吐薬や下痢止めも適切に飲めているかどうかを確認しています。初回は主に医師の診察の後に服薬方法などを説明し、2回目以降は医師の診察までの時間を活用しています。また、これらを踏まえて、必要に応じて医師に処方提案を行っています。
◆ より多くの症例で薬剤師外来を実施するための工夫
薬剤師外来では、経験の深さにかかわらず、薬剤部全体として取り組んでいます。経験豊かな薬剤師と比較的若手の薬剤師をうまく組み合わせることで、外来対応と同時に薬剤師の育成にも利点があります。様々な経験をもつ薬剤師が対応するうえで、必要なポイントが漏れなく確認できるよう、個々の患者さんごとにどのようなポイントを見ていくべきかを事前に記録しておき、質の高いアセスメントを行えるようにしています。
② 検査オーダー入力支援
ICIによる免疫関連有害事象(irAE)を早期に検出しマネジメントするには、自覚症状と検査値のモニタリングが非常に重要で、一般的には医師が診察時に確認しています。しかし、医師の負担が大きくなってしまうこともあり、当施設では事前に取り決めたプロトコールに沿って薬剤師が検査項目についても確認しています。また、検査オーダーが漏れていた場合には薬剤師が補完的に入力するという取組み1)によって、必要な検査項目が漏れなく実施できるようになりました。その効果として、必要な検査が全て実施できた場合を100%としたときの検査実施率が、99.2%になりました1)。
必ずしも100%を目指すことがゴールとは考えていませんが、早期に検査値の異常が検出できるようになったことで、適切なタイミングで専門医にコンサルトできるようになり、安全性の向上にもつながっています。
○タスク・シフト/シェアの実施にあたって意識していること
当施設ではタスク・シフト/シェアの実施にあたって、「どのような視点で見ていくか」、「どのような記録を残すか」という意見のすり合わせを多職種と行うことを大切にしてきました。また、そのようなディスカッションに加えて、定期的な取組みの振返りも意識しています。
① 多職種によるディスカッション
厚生労働省の「厚生労働省医政局通知※1」で、タスク・シフト/シェアに関する記載にもある2)ように、「今の法制度下で薬剤師ができる・するべきこと」、「国や医療全体から期待されていること」をしっかり果たすよう心がけています。新たな取組みを始めようとするときには、医師や看護師など多職種と相談し、法制度や各職種の役割をしっかり吟味した上で、どのようにその取組みを実施していくかを考えることが重要です。
※1現行制度の下で実施可能な範囲におけるタスク・シフト/シェアの推進について
(厚生労働省ホームページhttps://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000720006.pdf )(2025年6月27日確認)
② 実施した取組みの振返り
薬剤師外来や検査入力の支援など、新たな取組みを実施した後には、必ずその振返りを行います。
例えば、検査オーダー入力支援の取組みにどのような意味があったのかを振り返って評価すると、「検査値や検査オーダーの漏れを減らすことができ、必要な検査項目の実施率が向上した。1)」というデータが出てきました。このことから、取組みの有用性を示すことができ、さらなる改善点の発見にもつながりました。
【神戸市立医療センター中央市民病院におけるirAEマネジメントのポイント】
○irAEマネジメントのための取組み
ICIによるirAEでは、発見の遅れによっては重篤化し、生命に危険を及ぼすことがあります。そのため、できるだけ早期に発見して適切に対応していくことが重要です。3)
① 患者さんがセルフモニタリングできるような取組み
irAEマネジメントでは、薬の投与前に患者さんへ、「irAEとはどういうものなのか」、「特にどういう症状が出たら医療者に連絡をするのか」など、セルフモニタリングにつなげられる情報を説明しておくことが重要です。
例えば、当施設では、様々なICIを横断的にカバーしている冊子を独自に作成して患者さんへの説明に活用しています。
◆ 作成したパンフレットの一例
・化学療法全般に関する注意事項
細胞傷害性抗がん薬の説明、悪心・嘔吐時の対策、インフュージョンリアクションの対応、発熱性好中球減少症の対応 など
・ICIを包括的にカバーする説明文書
基本的な薬効、irAEの説明、病院受診を推奨する具体的症状 など
・セルフチェックのための日誌
② 検査値異常の早期発見と正しい対応のための関係性づくり
irAEマネジメントにおいては、自覚症状や検査値異常が出ていないかを見ていくことと、適切な対応ができるチーム医療の構築が大切です。
前述した検査オーダー入力支援により必要な検査項目を正しく実施することができ、検査値の異常を早期に発見できるようになりましたが、irAEのモニタリングに関しては自覚症状や検査値異常の早期発見に加えて、異常を感じた場合に迅速に相談できる体制も大切です。そのためには、普段から医師や看護師などの他職種とコミュニケーションをとりやすい環境づくりを心がけるほか、他職種の期待に応えられるよう、薬剤師自身が専門性を高めることも重要です。
◆ ICI使用アイコンの作成
irAEは、症状によっては急激に悪化することもあり、患者さんが重篤化した状態で救命救急センターに搬送されることもあります。そのため救急対応時でも、患者さんがICIを使用しているのかが把握できる体制が必要になります。
当施設では、治験の患者さんも含めてICIを投与されている患者さんの電子カルテ上には全例、ICIというアイコンが表示されるようにしており、どの診療科でも患者さんのカルテを開けばICIを使用していることが把握できます。ICIのアイコン表示は、薬剤師が初回の処方を確認するタイミングで入力するという形をとっています。
○地域の保険薬局・医療機関との連携の取組み
irAEは、投与期間中だけでなく、投与終了後も発現する可能性があります3)。したがって、ICI投与終了後のフォローは薬局薬剤師の働きが鍵になります。当施設では薬剤師会や近隣の保険薬局と連携し、病院の様々なスタッフと保険薬局の薬剤師をつなぐ取組みに力を入れてきました。
① 院外処方箋の調剤応需
院外処方箋を薬局で調剤応需してもらい、定期的な電話での症状のフォローアップを行い、自宅での様子や副作用対応などを中心に、トレーシングレポートに記載してもらっています。
② トレーシングレポートの統一4)
トレーシングレポートは医療機関ごとに異なる様々な書式があり、わかりづらいものがありました。兵庫県薬剤師会では、既存のトレーシングレポートをベースとしたトレーシングレポートの書式統一に取り組んでいます。特に、irAEでは様々な症状が起きやすいので、質の高い連携を図るために必要な項目をまとめてフォーマット化しています。
③ トレーシングレポートの共有4)
薬局からいただいたトレーシングレポートは、一旦薬剤部で全て受け取り、個々の患者さんの電子カルテにスキャンデータとして取り込んでいます。また、医師が電子カルテを開いたときにすぐに要点がわかるように、患者さんの電子カルテの掲示板にダイジェストを記載します。それによって、問題がないか、それとも解決すべき課題があるのかということをすぐにわかるように多職種で共有しています。
④ 常用薬・irAEに対する治療薬の把握
例えば、通院していた病院を変えたり、一時的に別の病院に入院されて、退院後に外来通院を再開されたりするような場合に、まれに常用薬やirAEに対するヒドロコルチゾンなどの処方が漏れてしまうことがあります。施設が変わっても地域の中でirAEマネジメントを継続していくためには、薬局薬剤師が常用薬を把握しておくことが特に重要です。
⑤ 薬局薬剤師向けの研修会
兵庫県病院薬剤師会では、薬局薬剤師向けの研修会を多数行っています。例えば、ICIやirAEの特徴について解説し、病院ではどのような治療を行っているのか、治療の位置づけはどうなっているのか、薬局の薬剤師にどのようなことをモニタリングしてほしいのかといったことを発信しています。研修会を通して薬剤師の経験値を高め、患者さんのirAEを発見できる機会が増えることに期待しています。
先生からのメッセージ
私たち薬剤師は、かねてより様々なことを経験する中でスキルを学んできました。これまで培ってきたことが、「厚生労働省医政局通知」という目に見える形で、国や医療全体から期待され、現行の法制度下で取り組むことができる業務として明記されたということは1つの大きな変換点です。現在は薬学部が6年制になったことで、より実務実習にも力を入れられるようになり、教育課程も充実してきました。
今後タスク・シフト/シェアを進めていく過程で、薬剤師の役割はどんどん広がっていきます。私たち自身も自分たちの仕事がどうあるべきか、期待される役割は何かということを真剣に考えていくことが必須になってきています。また、そのような日々を過ごしていくことは、自分たちの仕事にどのような意味があるのかを振り返ることにもなり、若手薬剤師の育成にもつながっていきます。
【まとめ】
ICIにより発現するirAEのマネジメントにおいては、チーム医療での取組みが重要です。タスク・シフト/シェアの推進は、ただ単に「仕事を誰が担当するか」、「仕事をどのように分散するか」ということ以上に、人材が育成され、スキルアップにつながり、チーム医療がさらに充実していくことにつながります。ICIを安全に使用していくためには、irAEのマネジメントが重要となり、そのための有効な手段のひとつとしてタスク・シフト/シェアの推進が挙げられるでしょう。
【出典】
1)Ikesue H et al_J Clin Pharm Ther_2020 Dec_45(6)1288-1294
(https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jcpt.13207)(2025年6月27日確認)
2)「医政発0930 第16号 令和3年9月30日」(厚生労働省)
(https://www.hospital.or.jp/pdf/15_20210930_01.pdf )(2025年6月27日確認)
3)峯村 信嘉:免疫関連有害事象 irAEマネジメント 膠原病科医の視点から 金芳堂 P.16-17,32-33
4)神戸市立医療センター中央市民病院 ホームページ
(https://chuo.kcho.jp/department/pharmacy/ )(2025年6月27日確認)
※本コンテンツは、厚生労働省の検討会の報告書や、調査結果等の資料から一部抜粋及び加工して作成されております。掲載内容の詳細については、各出典資料および厚生労働省のホームページをご覧ください。
施設情報
神戸市立医療センター中央市民病院 薬剤部
https://chuo.kcho.jp/department/pharmacy/
※(2025年6月27日確認)
作成月:2023年10月
更新月:2025年7月

