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臨床試験におけるエンドポイントの解説 見て理解する臨床試験データ VOL.1

記事内容

見て理解する臨床試験データ

1.OSとORR

理解のポイント

エンドポイントとは、治療法の評価に用いられる臨床的・生物学的な指標のことです3)。臨床的な指標の例としては、全生存期間(OS)や無増悪生存期間(PFS)、奏効期間(DOR)などが挙げられます3)。OS は無作為割付された日などあらかじめ規定された時点から全死因による死亡までの期間と定義され、多くの第III相無作為化比較試験では、intent-to-treat集団で評価されます4)。OSは評価者による違いがなく、信頼性の高いエンドポイントとみなされてきました4)
このように、OS はがん領域の臨床試験においてゴールドスタンダードです。しかし一方で、例えば予後の良い腫瘍の場合ではOSの観察期間が長期にわたり、臨床試験のコストが増加する可能性があり、また臨床試験後に他の治療を受けることができるため臨床試験の治療がどの程度OS に影響しているのか解釈が難しくなるケースもあります3)
そのため、比較的短期間で評価でき、かつその治療法の効果をよりダイレクトに測定できる奏効率(ORR)やPFS などをエンドポイントとして設定する場合もあります3)

OSとORR 理解のポイント
用語解説

全生存期間(Overall Survival:OS)4)
無作為割付された日などあらかじめ規定された時点から全死因による死亡までの期間

RECIST(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors)5)
2000 年2 月に、欧州癌研究治療機構、米国国立癌研究所などによる国際的な協力によって発表された腫瘍縮小効果を評価する基準

奏効率(Overall Response Rate:ORR)4)
完全奏効または部分奏効が得られた患者の割合

intent-to-treat 集団4)
臨床試験に登録された全ての患者集団

  1. 3)Fiteni F, et al. J Visc Surg. 2014;151:17-22.
  2. 4)西川昭子 他. 臨床評価. 2007; 35(1):107-127.
  3. 5)固形がんの治療効果判定のための新ガイドライン(RECIST ガイドライン) - 改訂版 version 1.1- 日本語訳JCOG 版 ver.1.0. 2010 年.(http://www.jcog.jp/doctor/tool/RECISTv11J_20100810.pdf
図1 OSは信頼度の高いエンドポイント(イメージ図)
図1 OSは信頼度の高いエンドポイント
図2 RECIST 基準によるORR(イメージ図)
図2 RECIST 基準によるORR
参考:RECIST ver.1.1 Response Criteria(標的病変の評価)5)
完全奏効※※
Complete Response:CR
全ての標的病変の消失。
「正常リンパ節」の短径が 10 mm 未満と定義されていることから、径和が 0 ではないことがある。
部分奏効※※
Partial Response:PR
ベースライン径和に比して、標的病変の径和が30% 以上減少。
安定
Stable Disease:SD
経過中の最小の径和に比して、PR に相当する縮小がなくPD に相当する増大がない。
進行
Progressive Disease:PD
経過中の最小の径和(ベースライン径和が経過中の最小値である場合、これを最小の径和とする)に比して、標的病変の径和が20% 以上増加、かつ、径和が絶対値でも5mm 以上増加。
  1. ※:臨床的病変(皮膚の小結節など)は、表在性で、かつ測径器により測定した長径が 10 mm 以上の場合にのみ測定可能とする。
  2. ※※:腫瘍縮小効果が primary endpoint である非ランダム化試験においては、判定された効果が測定誤差による結果ではないことを保証するために、PR および CR の事前に定めた一定期間後の確定(confirmation) が必要である。
  3. 5)固形がんの治療効果判定のための新ガイドライン(RECIST ガイドライン)- 改訂版 version 1.1- 日本語訳JCOG 版 ver.1.0. 2010 年.
    http://www.jcog.jp/doctor/tool/RECISTv11J_20100810.pdf)を参考に作成

2.腫瘍縮小効果とPFS

理解のポイント

がん領域の臨床試験では代替エンドポイントとして腫瘍評価に基づくエンドポイントが採用されることがあり、ORR、PFS等が含まれます3)。 奏効期間は通常、最初に奏効が得られたと判断された時点から増悪時までとされ、ORR は完全奏効または部分奏効が得られた患者の割合です4)。OS は単に生死を評価しており、予後良好な場合には打ち切り(censoring)が多くなる特徴があるのに対し、ORR は前述のように腫瘍サイズに基づく評価であり、PFS は腫瘍の進行または死亡までの期間を評価していることから、治療効果がよりダイレクトに反映されます。その一方で、頻繁な放射線学的評価または他の評価が必要であり、判定者間での評価の差や評価時期によるぶれなどのバイアスが入る可能性があるため、客観性と比較可能性をできるだけ担保することが重要となります4)

腫瘍縮小効果とPFS 理解のポイント
用語解説

無増悪生存期間 (Progression-Free Survival duration:PFS)4)
無作為化から腫瘍の増悪、またはあらゆる原因による死亡のいずれかが発生するまでの期間

  1. 3)Fiteni F, et al. J Visc Surg. 2014;151:17-22.
  2. 4)西川昭子 他. 臨床評価. 2007; 35(1):107-127.
図3 OS に治療効果が反映されない例(イメージ図)
図3 OS に治療効果が反映されない例
図4 腫瘍縮小効果とPFS(イメージ図)
図4 腫瘍縮小効果とPFS

3.さまざまなエンドポイント

理解のポイント

臨床試験のプライマリーエンドポイントとして OS や PFS が使用されていますが、近年、新規メカニズムを有する治療薬の開発において、OS や PFS の延長効果の有無の評価だけでは十分に対応できない場合があり、後治療を考慮したセカンダリーエンドポイントや探索的エンドポイントを用いた複合的な評価が行われています6)

さまざまなエンドポイント 理解のポイント
図5 群間差が一定ではない生存曲線(イメージ図)
図5 群間差が一定ではない生存曲線
  1. 6)森田智視. 腫瘍内科. 2019;23(4):405-409.
  2. 7)Hu C, et al. JAMA Network Open. 2021:e218175.
用語解説

奏効期間(Duration Of Response:DOR)7)
CR またはPR(最初に記録された方)の測定規準が最初に満たされた時点から、再発または増悪が確認された最初の日までの期間

参考:FSとの違いとDORの表し方7)
第Ⅱ相試験まででは、このDOR をエンドポイントとする場合もあります。
DOR はOS やPFS と同様にKaplan-Meier 曲線で表す場合もあります。
また、個々の患者さんにおける奏効の期間を、奏効を確認した時点、治療の継続状況などとともに示すスイマーズプロットという表し方もあります。

PFS とDORの違い(イメージ図)
PFS とDORの違い

がん領域の臨床試験におけるエンドポイントの考え方

理解のポイント

臨床試験によって治療効果を評価する際に、OS だけでなくPFS やORR など、さまざまなエンドポイントが採用されていますが、それぞれに違う意義をもっています。
そのため、OS、PFS、ORR を包括して解釈することにより、がん領域の薬剤の有効性評価が可能となると考えられています2)

  1. 2)Wilson MK, et al. Lancet Oncol. 2015;16(1): e32-e42.